第33回日本霊長類学会大会
会期:2017年7月15日(土)~7月17日(月・祝)
会場:コラッセふくしま(福島市美川町1番20号)
NPO法人どうぶつたちの病院は
福島市内に生息する野生ニホンザルにおける放射性物質による健康被害調査に参加しています。
2011年3月に起きた東京電力福島第一原子力発電所の爆発により、発電所周辺は広い範囲が放射性物質に汚染され、野生動植物にも影響が及んでいますが、食用にならないサルは、イノシシやシカ、クマのように調査されることなく、また、環境省が行っている放射線による野生動植物への影響調査の指標動物にも選定されませんでした。
そこで、わたくしたちは、野生ニホンザルが、どの程度放射性物資を体内に取り込み、それによって健康被害を受けているのかどうかを調べることにしました。
■ 共同研究機関 ■
日本獣医生命科学大学
NPO法人どうぶつたちの病院
JAふくしま未来
京都大学・霊長類研究所
■ 協力 ■
福島市、むつ市、大間町、佐井村、風間浦村
山崎秀春氏
下北半島のニホンザル被害対策専門員の皆様
福島市ニホンザル保護管理専門員の皆様
柴田憲明氏
合同会社まかく堂
なお、本研究は京都大学霊長類研究所共同利用研究費、私立学校学術研究振興資金、JSPS科学研究費・基盤Cによって実施されています。
■ 調査対象 ■
福島第一原子力発電所から80km離れた福島市のサルを対象として2011年4月から調査を行っています。また、対照として青森県下北半島のサルを調査しています。
福島市および青森県下北半島では、鳥獣保護法に基づく特定鳥獣保護管理計画により、サルの個体数調整が行われており、これにより捕獲・殺処分されたサルを用いています。
福島市:1612頭(2008年4月から2017年3月)、1018頭(2011年4月から2017年3月)
青森県下北半島:671頭 (2012年4月から2017年4月27日)
■ 調査項目 ■
・外部計測・解剖による繁殖状況の評価、栄養状態の評価
・病理学的検査
・血液学的検査
・筋肉中セシウムの測定
セシウムによる生息地の土壌汚染レベルと体内蓄積量とに関係があることが判りました。
※Hayama S, Nakiri S, Nakanishi S, Ishii N, Uno T, et al. (2013) Concentration of
radiocesium in the wild Japanese monkey (Macaca fuscata) over the first 15 months
after the Fukushima Daiichi nuclear disaster. PLoS ONE 8(7):e68530.
doi:10.1371/journal.pone.0068530
※Ochiai K, Hayama S, Nakiri S, Nakanishi S, Ishii N, et al.(2014)Low blood cell counts in wild Japanese monkeys after the Fukushima Daiichi nuclear disaster. Scientific Reports 4 : 5793 doi: 10.1038/srep05793
■ 論文要旨 ■
福島のサルの筋肉中総セシウム濃度は、78~1778 Bq/kgでしたが、下北のサルでは、すべての個体でセシウムは検出限界以下でした。福島のサルの白血球数、赤血球数、Hb、Ht 、MCV、MCHは、下北のサルに比べ有意に低下しており、また未成熟個体では、筋肉中総セシウム濃度と白血球数の間に有意な負の相関がありました。したがって、福島のサルでみられた血液学的な変化は、放射性物質による被ばくの影響と考えられます。
■ 調査結果-2 ■
筋肉中のセシウム濃度が高い母ザルでは、胎児の成長に影響があることが判った。
Shin-ichi Hayama1*, Moe Tsuchiya1, Kazuhiko Ochiai1, Sachie Nakiri1, Setsuko
Nakanishi2, Naomi Ishii1, Takuya Kato1, Aki Tanaka1, Fumiharu Konno3, Yoshi
Kawamoto4, Toshinori Omi1(2017)Small head size and delayed body weight growth in wild Japanese monkey fetuses after the Fukushima Daiichi nuclear disaster.
1Nippon Veterinary and Life Science University, Tokyo, Japan
2Conservation and Animal Welfare Trust, Tokyo, Japan
3Fukushima Mirai Agricultural Cooperative, Fukushima, Japan
4Primate Research Institute, Kyoto University, Aichi, Japan
■ 論文要旨 ■
災害前に妊娠した胎仔35個体と災害後に妊娠した個体32個体において、CRL(crown ramp length・頂臀長) に対する体重および頭部のサイズ(頭蓋の最大長径と最大横径の積)の相対成長を比較したところ、災害後の胎仔で体重と頭部のサイズのいずれも有意に低下していることが明らかになりました。これらの胎仔の母親の栄養指標に有意差は認められず、観察された発育遅滞は放射線被ばくの影響が示唆されました。
福島市のニホンザルは、世界で初めて原発災害によって被ばくした野生霊長類となりました。 ヒトを含めた低線量長期被ばくによる健康影響を明らかにするために、 20~25年の寿命を持つサルを今後長期的にモニタリングすることは極めて重要であり、これを続けることは、野生動物の医療に携わる者の使命と考えています。
NPO法人どうぶつたちの病院
野生を守るのが仕事です。