出会えたオオルリと見られなかったヤマショウビン

オオルリ

 

 

チーチーピリーチリチリ

 

 林道を歩いていると、綺麗な鳥のさえずりが聴こえてきた。どんな鳥なんだろう。立ち止まり辺りを見渡してみる。日の光が木々の隙間からすり抜けて所々に落ちていた。綺麗だなーと思うけど肝心の鳥は姿を見せてくれない。

 もしかしてこのまま歩いてたら姿が見れるんじゃないか。そんな期待を寄せながらゆっくりと歩いてみることにした。林道を一人で歩いているとその静けさに驚く。長靴で地面を踏みしめる音がこんなにもうるさいものだとは知らなかった。

 

 でも、森はずっと静寂に包まれている訳ではない。

 

 バチバチガサガサとツシマジカが小川を挟んで向かいの森を走り去っていく。

 バタバタとメジロが飛ぶ。

 コンコンコンとシジュウカラが木を叩く。

 

 チーチーチーピリーチリチリチリ

 

 そしてあのさえずりも聞こえる。

 

 対馬には珍しい鳥がいっぱいいる。折角対馬に来たのだからそういった鳥たちを一杯見てみたいなと思っていた。そしてこれがその第一歩になる。そんな予感もしていた。

 

 しばらく歩いていると、小川の方からバシャバシャと音がする。水浴びをしている!

 でも、小川の方を見ても姿は見えない。水浴びをしているところがちょうど岩の陰になっているのだ。

 ゆっくりと覗き込むように移動する。姿が見えた。でもその瞬間ばっと飛び去ってしまった。

シルエットしか分からず、その鳥は森の奥へと消えてしまった。

 

 なんて警戒心が強いんだろうと驚いた。でも、それと同時に不思議だとも思っていた。こんなに警戒心が強いのに、ずっと聴こえてくるさえずりの大きさは変わっていない気がした。

 もしかして一定の距離を保ってどこかでこちらを観察していたりして。

 もちろん本当のところは分からない。たまたまかも知れない。

 

 でも、もしそうだったら面白いなと思う。

 

 水浴びをしている所を見れなかったのは残念だけど、一層ウキウキしながら林道を歩いていく。その後も、何度かシルエットを確認することが出来た。でも双眼鏡を構える前に森の奥へと飛び去ってしまう。

 今日は見れないかな。だんだんと自信がなくなってくる。

 少し奥の木でめじろがチョロチョロと動いていた。双眼鏡で見てみる。綺麗なウグイス色だった。

 丸っこくて小さくて可愛いけど、顔をよく見てみると昔テレビで見ていた肉食恐竜を思い出す。目がギラリとしているのだ。

 しばらくメジロを観察しているとほかの枝にもメジロが止まった。と、思っていた。

 

 チーチーピリーチリチリー

 

 あ!

 慌ててカメラを向ける。

 

 新緑の緑に映える藍色がそこにはあった。オオルリだった。

 

 チーチーチーピリーチリチリチリ

 

 あれ、と首をかしげる。スマホで何回も流したはずのその声は、こんなに綺麗だっただろうか。

 

 

ヤマショウビン

 

 

 

 「星野くん。○○橋でヤマショウビンが出たってよ。」

 ちょうど昼休憩が始まる頃だった。

 「行きます!」

 つい反射で答えてしまう。珍しくて、綺麗なヤマショウビン。そりゃあ見てみたかった。

 

 でも、少し気になることがあった。目撃情報が回っているってことは、人が一杯来ているのかな。そのことが何故か引っかかっていた。

 

 ○○橋まで着く。何台か車が止まっていた。こんにちわーと挨拶をし、ヤマショウビンを探してみる。

 

 でも、、

 だんだんと人が集まってきた。そりゃあそうだ、なんてったってあのヤマショウビンなんだから。

 でもふと、もし今ヤマショウビンが目の前に現れて、写真が取れたらどう思うだろうと考える。

 

 きっと綺麗だとは思う。でも感動はしないかもしれない。そう思ったらなんだか自分がここにいる意味がよく分からなくなってしまった。お腹が空いてきた。帰って昼ご飯を食べよう。

 

 帰りの車の中で、あの日出会ったオオルリを思い出していた。

 あんなに警戒心が強いと思っていたのに、一度姿を現したのを皮切りに俺が林道を出るまでちょくちょく姿を見せてくれた。やっぱりこいつはこいつで俺のことを観察しているんじゃないかと、思ってしまうほどだった。

 本当に楽しくて感動した。

 

 もしかして俺は見たいんじゃなくて出会いたいのだろうか。

 

 せっかく対馬に来たから、珍しい鳥を一杯見てみたいと思っていた。でも正確には見たいんじゃなくて出会ってみたい。

 

 もしそうだとしたら難易度が高いなーと車のなかで頭を掻いた。

 でもやっぱりそっちの方が楽しいだろうなとも思っているのだった。